”導き”を指に嵌めて生じた感覚
やはり、神はおわすのか やはり、世界に真実はあるのか やはり、神は……
単に、私を見捨てただけか
人知れず継承の儀式を行った。軍の中でそんなものを知っているのは博学のルーテくらいだろう、自分で準備して、一人で終わらせた。 身を包む高濃度の魔力に息をつく。既に導きの指輪は外してもよかったが、ほとんどの魔道士が証として身につけたままでいるように、ノールもまたそれを外すことは憚られた。これを渡した当人が、返品不可だと言い捨てたから尚更である。 導きの指輪は古代にあったという高文明において創られた、”形にした神の息吹”だと神殿は教えている。 本来素養に欠けるものであっても神の奇跡である杖を振るうことが出来るのはそのためなのだと。 長く馬鹿げたことだと思っていた。杖など神殿で作り出すことさえ可能な現代の産出。
ノールは指輪を見下ろした。かつて嵌めた時は導きの欠片も得られなかったこの神秘の道具。 神はいるのか? 導きに足りるか見てるのか。 見守っていながら、何もしないのか。
ノールは指輪から視線を外した。苛々していた。
「ノール」 呼びかけにノールは振り返った。想像したように、常のようにどこか硬い顔をしたエフラムがそこにいる。だが今日は常に持っている槍ではなくもう少し短いものを持っていた。 差し出してくる。 「……あの?」 「なんだ、受け取れ」 ノールは渋々と差し出された棒を受け取った。どこかおっかなびっくりと、である。 そんな様子にエフラムは不思議そうに首を傾げる。 「どうした」 「いえ。……あの、何故杖を」 エフラムは、もっと不思議そうな顔をした。 「お前、昇格したんだろう。昇格した魔道の使い手は、須らく杖を扱うと聞いたぞ」
須らく。
ノールは胡乱げな視線で杖を見下ろした。よくもそんな便利な機能等ついているものだ。 「……怪我をなさっておいでですか?エフラム様」 かすり傷のようだが軽く腕が赤くにじんでいるのを見て取って呟く。 「ああ。大したことは無いが」 「失礼を」 ノールはライブの杖をかざした。意識を集中すると、右手に嵌められた”導き”がざわざわと杖を探っていく。 杖に設えられた宝玉にその力は収束している。完璧な球形を描くことによって生じさせる力。玉の隅々までその力を探っていき、己の魔力をそこに伸ばしていく。 ぽう、と杖が光を放った。
なんだ、簡単じゃないか。
そっとライブの杖を下ろしたノールは、奇妙な顔をしたエフラムと対面した。 「……どうなさいましたか」 「杖は嫌いか」 ノールは言葉に詰まった。本当に、この人は鋭い。鈍いのに。
「杖は、聖職者の振るうものですから」 なのに私のようなものまで使えてしまうのですよ?
ノールとしては、この説明で全てが納得されると思っていた。だが鋭いはずのルネス王子はますます奇妙な顔をする。 「誰が使ったところで何かが変わるわけではないと思うが……」 エフラムはノールのライブの杖を取り上げる。ぶんぶん振る様子は何か武器とでも勘違いしているかのようだ。そういえば彼の親しくしているロストン王女は杖で魔物をぼこ殴りにしようと毎日杖を振るう練習をしているらしい。 「まあ、便利ではあるな」 あんまりな言葉にノールは何処か納得のいかない思いが残る。 「ないと、不便ですから」 「なければないで戦略を立てるぞ」 「……怪我などした時に」 「杖は無いほうが多いしな。あまりに重傷だと杖も効かないし、軽いなら傷薬で手当てすればいい」 「…………病の治療に」 「近隣の村で土地特有の疾患が流行っているらしいのだが、サレフに言ったところマケイの葉に……」 疫病の類に杖など振るっていられない。
「それでも、杖は凄いのですよっ!」 「…どっちなんだ」
|