「お父様のお墓に?」
「ああ、長く父上の墓には、御印がなかったから」

不思議と、きちんと防腐処理がされていたためか、ファードの頭部は崩れることがなかった
専門の遺体化粧班が努力して、ようやく生前と変わらぬ程度に繕える
今までずっと見つからなかったと告げることはできないから、一部のものだけの再度の葬儀だ。

まるで、眠っているかのような父

百合の中に佇むファードを前にして、エフラムとエイリークは静かに泣いた

泣けた

悲しみよりもずっと、そのことが尊いのだとラーチェルは思った





「エフラム?」
「何だ」
ラーチェルはルネスの美しい庭を眺めながら続けた
「わたくしは、父と母を覚えていませんの」
遺体もあの、闇の樹海のどこにあるかもしれない
彼女が知るのはただ、肖像の中の両親だけだった
「わたくしは、だから、父母のために泣いたことなどありません」
若い王は、彼女の言葉を静かに聞いている

「けれども、彼らを思うとき、わたくしは泣きたい気分になる。これは単なる、感傷に浸っているだけでしょうか」

二人の恋人達は視線を沿わすと、男は小さく首を振った

「君が、愛されているだけだ」



女はゆっくりと微笑んで

「貴方もですわね」

言葉を繋げた



END













(05/09/09)