「私が……リーフ様に光を……?」
ユリアにとって、リーフ王子とは居心地の良い場所であり、また、酷く縁遠い人である。 シレジアの雪の下に潜む春のように、暖かな大地のような人だ。優しくて礼儀正しい。 それでいて、ユリアとリーフは本質的に異なっている。二人はそれをよく知っていたのでほとんど関わりあうことはなかった。 だが先日、光魔道の契約を行ったリーフに助力したことで、少し状況は変化した。(「近しく呼んだら」参照) リーフがユリアに、光魔道についてのアドバイスを請うたのである。 ユリアは始め、断った。 だが意外なことにリーフは再三助言を請い、そしてユリアは頷いたのである。
「光魔道は、イメージが強く作用します。これは自然界の精霊以外の使役であるから……だと言われています」 ユリアに促され、リーフは瞳を閉じる。向かい合って椅子に座った二人の間に、淡い光が灯った。 光は扱いが難しい。イメージ魔道と呼ばれ、司祭に使用者が多いのはそのためだ。神の慈悲を光の姿として捉える彼らには存外に扱い易い。 リーフの周囲に浮かんだ光は明滅を繰り返し、不安定な色合いは隠せなかった。
ユリアには、それが意外だった。 (この人は、息をするように光を扱うのではないかと思ったのに) 不安定に魔力は揺れ、光となっては、魔力に戻る。
「リーフ様、一度瞳を開けてください」 「……難しいですね。ユリア様」 どうしたものか、とユリアは首をかしげた。彼女は、光を操ることが不安に思ったことがない。 使い始めたころは、どうしていただろうか。ユリアはシレジアでレヴィンと過ごしたことを思い出し。そして。
「お手を」 白いてのひらを差し出したのは、シレジアの記憶とは異なっていた。 「はい」 リーフがユリアの手をとった。大きくて少しかさついている。手には、様々な武技を修練しているが故に、剣を持つ以上の手になっている。 魔道士の手とも、セリスの手とも。――――の手とも違う。
ユリアは温かい体温を伝える手をそっと握ると、瞳を閉じた。 「呼吸を合わせてください」
数多の色の光が、瞼の裏できらきらと浮いている。 色の変幻はあれど、それはどれも白く輝き、ユリアの心に優しい。 色を集わせ、たまに変じ、白さを高めて――。
そこで、ユリアはふと沈んだ色に気が付いた。
あかい。
リーフの瞳の赤とはまるで違うのに、何故か同じものだと思った。
ひゅう、と光が立ち昇り、さらさらと溶けていく。 ユリアもリーフもゆっくりと瞳を開け、空に駆けていく光を見送った。
「ありがとうございます、ユリア様」 「いいえ……お役にたてましたら嬉しいです」
二人は柔らかく微笑んで。
そして、絡んだ指を離した。
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