それは鏡の中の戦争
ありえたかもしれない
もう一人の自分
「――ユリウス?」
闇の中で振り返った気配がした。微かに笑いに滲む彼に何度目かの苦言を放つ。
「子供狩りは、止めてくれないかと再三言っている」
「アーサーはお優しいことだ」
「ユリウス!」
皇子は笑うだけで取り合いはしない。
「私は、止めない」
そうして笑うことで、常にアーサーの反論を止めてしまうのだ。
これは既に体に刻み込まれた闇への恐怖と呼んでいい。
「……反乱軍の中に、イシュタルがいる」
その言葉に、ユリウスは一層妖しげな色を見せた。
「ブルームは再三の通告に関わらずトールハンマーを継承させたか。」
「全くフリージの血縁への思いには恐れ入る。それでブルームは?」
「揶揄るなよ……殺した。わかるだろ、イシュタルは無理だ」
お前のところには、絶対こない。
途端体を舐め尽すような闇の帳に襲われて、アーサーは息を詰める。
だがこんなものは慣れてる……。
「……五月蝿い」
ユリウスの言葉に、アーサーは溜息をついた。
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小説「鏡の中の戦争」の、鏡の中のアーサー。 |