fruitless effor
                  綾瀬由麻様



僕が何かを望むことなど、許されないのだろうか?
僕が何かを願うことは、罪なのだろうか?
たとえそれが罪であっても、許されなくても構わない。

ぼくは、あなたにあいされたい―――

 

柔らかな風が、二人の間を吹き抜ける。

「うわぁ、いい風。気持ちいいね、エミリオ」
「・・・そうだね」
隣りに座るウェンディーの言葉に、エミリオは僅かに微笑んで答えた。
あの再会から、一月が過ぎた。昔の自分を取り戻したエミリオとウェンディーは、
もう一人の大切な人・バーンを探して旅をしていた。
今は、その合間のほんの少しの休息。適当な木陰に座った二人は、疲れた体をゆっくりと休めていた。

「それにしても・・・どこに居るのかしら、バーン・・・こんなに探しているのに・・・」
例え休んでいてもそれしか考えられないのか、ウェンディーは珍しく憂鬱そうに溜息をつく。
その様子に心配そうに眉を寄せ、エミリオは膝を抱えているウェンディーの顔を覗き込んだ。
「ウェンディー・・・あんまり、思い詰めない方がいいよ。大丈夫、バーンはきっと見つかるから」
「・・・うん、そうだね。ごめんね、ありがとうエミリオ」
エミリオの優しい言葉に、ウェンディーは明るく笑って見せる。

エミリオの好きな、向日葵のような笑顔。

ウェンディーに柔らかく微笑み返し、エミリオは心の中で深く溜息をつき自分を嘲笑う。
「(嘘吐き。本当は、バーンが見つからなければいいと思ってるくせに)」
ウェンディーを安心させるような言葉を言う度に降り積もる、心の中の自分への嫌悪感。
バーンが嫌いなわけじゃない。バーンは大好き。でも・・・でも―――

彼が見つかってしまえば、もう彼女と一緒には居られないから。

「(最低だ・・・なんて自己中心的で醜い考え)」
自身の考えに、エミリオは吐き気すら覚える。
けれど、エミリオはどうしてもこの思いを捨てきれずにいた。
自分を始めて無償で愛してくれた彼女への想いが、エミリオの正常な思考を破壊してしまう。
どうにもならない、『おもい』の矛盾。

「そうよね、きっとバーンは見つかるわよね・・・今日がダメでも、明日はきっと。ね、エミリオ!!」
ウェンディーは自らを励ますように呟き、エミリオへと視線を向けた。
エミリオは薄い微笑みを絶やさぬままに、こくりと頷いて見せる。
「そうだよ。だから頑張ろう、ウェンディー」

嘘吐き。

「バーンを見つけたら、三人で暮らそう?きっと、毎日楽しいわよ」
ウェンディーがいつも語る、夢。
バーンと、エミリオと、自分の家。
そこでの、『力』に脅かされることのない生活。
―――あまりにも、甘美な夢。
「・・・そうだね。三人で・・・一緒に」

嘘吐き、嘘吐き、嘘吐き。

本当は、ずっと彼女と二人だけで居たいくせに。

バーンが見つかれば、彼女は自分など愛してくれない

―――違う、彼女はちゃんと、僕も愛してくれる!!

解っているんだろう?彼女が本当に愛しているのは彼だけだって

―――そんなことない、ウェンディーはちゃんと!!

じゃあ何故お前はバーンが見つかることを恐れる?本当は解っているんだろう?

―――僕は・・・!!

お前はちゃんと知っているんだ・・・誤魔化すな。
バーンなんて居なくなればいい、そう思っているんだろう?

「っ・・・違う、僕は・・・!!」
「エミリオ?どうしたの?」
突然頭を抱えたエミリオを心配そうに覗き込み、ウェンディーは軽くエミリオを揺する。
その声にはっと意識を現実に引き戻し、エミリオはウェンディーへと笑いかけた。
「ごめん・・・何でも無いよ。大丈夫」
目を閉じ、心の中の声へと耳を澄ます。
―――何も、聞こえない。
「そう?ならいいけど・・・じゃあ、そろそろ行きましょうか?」
「うん。そうだね・・・行こう」
地面から立ちあがり、ウェンディーとエミリオは再びバーンを探して歩き始める。

「・・・ウェンディー」
「ん?」
ふと立ち止まり、エミリオが声をかけるとウェンディーが振りかえった。
―――今、この一瞬は、彼女はエミリオだけを見つめてくれる。

「・・・大好きだよ」
微笑み、想いを言葉にして彼女に伝える。
ウェンディーは突然のエミリオの言葉に僅かに目を見開いたが、すぐに優しく微笑んでこう答えた

「私も大好きよ、エミリオ」

どんなに言葉にしても、伝わらないおもい。
どれだけあなたに愛されたいと願っても、決して報われない心。

それでもいい。今、一時だけでもあなたが僕を好きだと言ってくれるのなら。

 

柔らかな風が、二人の間を吹き抜けていった―――




END