FROM FAR DISTANCE 綾瀬由麻様
あいしてる、あいしてる、あいしてる 何度言っても足りない 言葉じゃ伝えられない
はらはらと舞う粉雪を見つめ、想うのはキミの笑顔。 「・・・雪・・・?」 空から舞い降りてきた白い雪に、エミリオは足を止め視線を上空に向けた。 曇り空から、ゆっくりと静かに雪が降ってきている。 「ああ・・・もうそんな季節なんだ」 一片の雪を手の平に乗せ、エミリオは小さく笑みを浮かべた。 雪は、嫌いじゃない。生まれた場所は、雪に覆われた街だったから。 ・・・それに。
彼女と初めて出会った日も、雪が降っていたから。
「・・・ウェンディー」 体温に触れ、一瞬で溶けてしまった儚い雪を見つめながらエミリオはそっとその名を呟く。 今は、どこか遠くの地で未だ消息の掴めぬ彼を探しているはずの少女。 太陽のような微笑みと、穏やかな春の陽射しのような優しさを持った彼女の事を想うと、 エミリオの心はふわりと温かくなる。
あいしてる、あいしてる、あいしてる それでも僕は、この言葉を繰り返す事でしかこの想いを伝える術を知らないんだ
会いたいと、強く思う。 あの笑顔を、もう一度見たい。あの声を、もう一度聞きたい。あの温もりを、もう一度感じたい。 もう一度、もう一度――― 「・・・駄目だ。全ての決着を付けるまでは・・・会えない」 生まれた思考を振り払うように呟き、だがエミリオは辛そうに目を伏せる。 これは、自分で決めたこと。姿を消したあの男を見つけ、自らの内面と決着を付けなければならない。 ・・・でなければ、きっと自分はまた、狂ってしまうから。
あいしてる、あいしてる、あいしてる きっとあなたは気付かない 空回りする想いと言葉 それでも僕は繰り返す 僕はこの言葉しか知らないから
「ウェンディー」 少しずつ降り積もる雪を見つめ、エミリオは再び彼女の名をそっと呟く。
それでも僕は繰り返す あなたに伝えたいから あなたに聞いて欲しいから
瞳を閉じ、エミリオは冷たい空気を胸一杯に吸い込む。 「・・・迷わない。僕には、迷っている暇なんかないから」 自分の背中を押すように、エミリオは瞳を開けてそう呟いた。 またあの笑顔に会えるように。そしてまた、彼女と共に居られるように。 迷っている暇などない。今はただ、前に進むだけ。
エミリオは強い意思を秘めた瞳で真っ直ぐ前を見つめ、歩き始めた。
あいしてる、あいしてる、あいしてる
今は会えないけれど。また、いつか会えたなら・・・その時はきっと
僕は、あなたを愛してる―――
END
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