2.初デートとお弁当



 護廷隊は瀞霊廷内の秩序維持を第一の責務とする。
 一般の死神が虚討伐と魂葬とを中心に据えるのに対し、護廷隊の責務はそれに留まらない。
 中央四十六室の命により、治安維持を預かる武闘派組織である。


 決して、書類仕事にばかり追われる組織では、ないはずだ。



 回覧文書を持って他隊に出向いていた松本は、執務室に戻ったとたん不満の声を上げた。
 乱雑に置かれた書類の束を見れば無理もない。
 眉根をしかめて束を一冊持ち上げ、その埃をふぅと吹いてから松本は言った。


「隊長ぉー。なんですか、これ」

「十一番隊の書類だそうだ」

「なんでうちが?
 そりゃあ、更木隊長とやちるは頼りになりませんけど、一角とか弓親とかいるじゃないですか」


「……阿散井に泣きつかれた。
 十一番隊は昨日から第四地区郊外に遠征に出てるらしくてな、一番上の席次が六席なんだそうだ。
 権限がなくて処理ができんらしい」


「んもう。だからって引き受けちゃだめですよ、こんなの。
 子供のころに言われませんでした?
 いくら憐れな顔したって面倒見れない小犬は拾っちゃいけませんって」


 困った子供を見るような目でため息をつき、松本は給湯室へと向かった。
 ほどよい熱さの茶と、お茶請けのそば饅頭を載せた盆を持って戻ってくる。
 
「はい、隊長。少し息抜きしてくださいな」


 放っておけばいつまでも書類を片付けない副官だが今回ばかりは俺の方が分が悪い。
 俺が黙って茶をすするのを満足げにしながら、松本は席についた。
 改めて束になった書類を一枚めくって嫌そうな顔をする。


「コレ、刻限いつまでって言ってました?」

「……今日中だそうだ」

「うそでしょう!?この束、締め切りを三日も過ぎてるじゃないですか。
 恋次ったら何やってんのよ、まったく」


 十一番隊六席の阿散井はその席次以上の実力を持った男であり、十一番隊には珍しく真面目に書類仕事にも向き合う奴である。
 そうは言っても六席。せめて副官補佐の肩書きがないと捺印できない書類もあるのだから仕方がない。


「あー。あー、あー。もう」

 見るのが嫌になったらしく、あっさりと放棄して松本はそば饅頭をぱくついた。

「いいですよねえ、十一番隊。今頃楽しく虚退治ですか」

「楽しくって、あのな」

「隊長だって本当は羨ましいんじゃありません?
 隊舎内じゃ帯刀も認められないし、鍛錬場で打ち合いするにも三席以下じゃ相手にならないし……。
 たまには気兼ねなく剣振るってストレス発散ですよ」


 不謹慎な言葉を咎めようとして、俺は茶をすすって言葉を飲み込んだ。

 実のところ、羨ましいのは確かだった。
 別に虚退治が羨ましいわけではない。思い切り剣が振るえるという状況に対してだ。
 所構わず暴れたいわけではないが、毎日書類仕事ばかりでは気が滅入るのは確かだった。


 束になった書類をめくる。古ぼけた体裁に荒い文字が書かれ、ものすごく読みにくい。
 それでも、きちんと報告があるだけマシな方だ。
 中には”虚が出た、斬った”なんていう、ガキの日記よりお粗末な代物もあったりする。
 十一番隊は書類仕事が苦手なのではなくやる気がないのだろう。


「松本。明日、暇か?」

「え?」

「流魂街第三地区郊外に、近くに集落がなくて稽古に向いた場所があるらしいんだが。
 付き合え」


 俺の言葉にきょとんと目を丸め、松本はぱちくりと数回瞬きをした。

「斬魄刀を持って、ですか?」

「無論、解放は却下だがな」

 十番隊内に、本気で剣の相手ができるやつはいない。

 隊長格になって不便だと感じたのはこれだった。
 我流でどんなに鍛錬を重ねても対戦に勝る修行はない。
 他隊の隊長格へはいろいろと面倒があって試合を申し込むことなどできはしない。
 (十一番隊の更木であれば気にせず受けてくれそうではあるが)


「かしこまりました」

 にっこりと松本は笑った。

「決まりだな。ではその束を片付けるのを手伝え。今日中に始末するぞ」

「えー?」

 とたんに不満そうに口を尖らせるが、ふと面白いことを思いついたとばかりに松本の顔が笑う。

「そういえば、隊長からデートのお誘いなんて始めてですねぇ」

「なっ、誰がデートだ!?」

 

 深夜遅く、書類の束は片付いた。
 さすがに気が咎めたらしい阿散井が何度か様子を見に来たが、だったら始めから他隊を頼るな。


 更木たちはまだ帰っていないらしい。
 斑目や綾瀬川からの連絡によると、仕留めそこなった虚がおり、その行方を追っているのだそうだ。
 霊圧感知の苦手な人員ばかりだから苦戦しているのは予想がつく。もっとも、だからといって心配する気にはならないが。


「く、あっ……さすがに書類見すぎで目が痛てぇ……」

「お疲れさまです。後は片付けておきますから、隊長は先にお帰りください」

 まっすぐ自室に戻ろうとした俺は、にこにこと笑う副官に見送られた。
 
「戻んねえのか、おまえは?」


「ふふ、ちょっと野暮用がありまして」

 そう、妙な笑みで見送られた。






   ※※※






 流魂街の郊外には森林が広がっている。
 集落から離れれば離れるほど人の手が入っていない場所になる。
 第三地区でさえこれなのだから、番号の多い地区はどれほどのものだろうか。
 現世は人間が増えて開拓する場所がなくなりつつあると聞くが、尸魂界には当面その心配はない。


 午前の仕事を片付けて、三席及び副官補佐に面倒を頼むと、俺は松本を連れて隊舎を出た。
 何かあったらすぐに呼べと地獄蝶を預けておいたが、早々滅多なことは起こらない。
 
「いーいお天気♪」


 上機嫌で鼻歌を歌いつつ、松本は軽い足取りで歩く。
 途中までは瞬歩で駆けて来たが、到着目前になって松本は速度を変えたのだ。


「ねえ、隊長。お散歩しながらいきましょうよ」

 松本は、ものぐさだし面倒くさがりだが、自身が楽しいと思ったことは譲らない。
 ん、とばかりに差し出された手に、俺は思わず絶句した。


「なんだ、その手は?」

「手をつないでいきましょう」

 絶対に嫌だと固辞する俺に、松本はもう一度にっこり笑った。
 有無を言わせない様子に、諦めて手を差し出す。
 松本は片手に風呂敷包みを抱え、もう片方の手で俺の手をとる。


 ああ、みっともねえ。

「……おまえ、楽しいのか、これ?」

「楽しいですよ?」




 森の谷間に草原を見つけ、鍛錬にちょうどよさそうだと結論づけると、運んできた荷物を置いて斬魄刀だけを携えた。
 俺の氷輪丸には元来鞘がない。
 氷で封をしているが、名を呼べば溶け、跡形もなくなる。
 とはいえそれでは鍛錬にならないので解放しないただの刀として微調整する。
 松本の刀は名を呼ばぬ限りただの刀なので、こういう時には便利だと思う。


「先に聞きますけど。隊長?」

「なんだ」

「解放は”なし”ですよね?」

 にこりと笑みを浮かべて、松本から仕掛けてきた。

 刀同士の触れ合う音が後から聞こえてくる。
 切り替えしが早い、体のバランスの使い方がいい、余計なもんをひらひらくっつけてるわりには(長い髪とか布とかだ)松本は速い。
 空中戦ならともかく、地上戦の場合、体格の違いは力の差だ。自分に分があると読んでいるのだろう。
 だが、死神の力量は霊圧の差だ。隊長と副隊長では、まったく次元が異なる。


 何度か刀がぶつかったところで、大きく後ろに跳んで距離をとる。
 ゆっくりと刀で円を描き、突如速度を変えて、低空で切り込んだ。
 松本の顔に驚きが浮かぶ。下からすくい上げる一撃を、だが松本は弾いた。


「…?」

 だん、と地面を蹴る。空へ浮かび上がった俺が上段に刀を構えると、松本は備えるように構えた。
 松本の足が地面に張り付いたのを見て、俺は落下速度を変えて後ろに回りこむ。
 剣圧が空を切り裂いた。
 後方から横凪に振るった一撃は、虚相手であれば胴をなぎ払うタイミングだった。


 松本の剣は、自身が振り向くよりも先に俺の刀を阻んだ。

「……ったぁ!危なっ」

 あわてたように松本が振り返る。
 幾度か刀を打ち合わせ、鍔競り合いが続いた。
 斬魄刀は日本刀を模しているため、本来ならばこんな戦い方は望ましくない。
 真正面からぶつかって、本物の日本刀だったらとっくに刃が欠けているだろう。


「……避けろよ?」

 わずかに口端を上げて、俺はたんっと地面を蹴った。
 一足で踏み込めるところまで距離をとり、刀を手元に引き戻す。


 すう、と息を吸い込む。
 ヒュォォ……と小さな、だが唸るような音が空気をきしませ、冷気が風となって吹きすさぶ。
 松本の髪が風で乱れる。


「た、隊長?」

 居合いの構えで松本を見据えると、松本の体は一瞬硬直した。
 松本の目が俺の動きに集中した次の瞬間、わざと体を揺らして、目が追えなくなったところを狙う。
 首筋を狙った切っ先は、だが松本の剣にぴたりと触れた。
 ぴしりと刃にひびが入るのではないかと思わせるほど正確に、松本は俺の切っ先を刀身で阻んだ。


 ひゅぅぅ、と風が通り抜けるまで、俺たちは微動だにしなかった。
 にやっと笑って俺が剣を引き、そのまま氷の封印を施して背に背負う。
 松本は鍛錬は終了だと理解したらしい。思い切り肩を落として抗議した。


「なかなかやるな」

「隊長こそ……、ってぇ!死ぬじゃないですか、あやうく!
 解放は”なし”って言ったのに、寒かったですよ、いま!?」


「心配ねえだろ、その剣なら」 

 間違いなく、松本は俺の動きが目で追えていない。
 それなのに間一髪で切っ先を避けるのは、天性の勘のよさかあるいは斬魄刀の性格か。
 松本は自身の刀を”気まぐれ”だと称したが、松本を護ろうとする剣ではあるようだ。





「あー、もう。冷や汗かいたらおなかすきました!」

 くったりと地面に座りこみ、松本は手足を投げ出した。
 草原の草はやわらかな座布団のようなもので、少しも痛くはないのだろう。


「まあ、休憩くらいはいいが」

「ん〜。それより、お昼にしません?」

 持ち合わせてきたのは水筒くらいだ。
 どこに飯があるんだ、と視線を投げた先で、松本が、置いておいた風呂敷包みを解いた。
 漆塗りの重箱。箱の上面には金象嵌の蝶が飾られている。
 俺が戸惑い、二度瞬きをしている間に、松本は重箱を開いた。


 そこらの店で売られているよりもずっと品よく飾られた弁当だった。

「そんなもん、用意してたのか」

「はい。せっかく隊長と任務外のお出かけなんですもの」

 にっこりと微笑み、松本はさらに取り皿やら湯呑みやらを用意し始める。
 風呂敷包みを持っているのには気づいていたが、こんなものが入っているところは想像しなかった。


「よく店開いてたな」

「いやですねえ、それ、もしかして本気で言ってます?」

 苦笑いするような顔で、松本は笑った。
 まさか……、とは思うんだが。
 目の前の華やかで派手な女と、店で相当の金を出さないと手に入りそうにない重箱の中身とが、どうにも結びつかない。


「あたしが作ってきたんですよ。隊長と一緒に食べようと思って」

 はい、謎が解けました?にこやかに微笑んで、松本は言った。

「……おまえ、料理できたのか!?」

「あら、ますます失礼な」
 
「あ、いや、悪い……」
 
 心外ですよぅ、と松本はつぶやきながらも別に怒ってはいなかった。
 俺もまた、驚きはしたがだからといって見くびっていたわけではないのだ。
 
「あたしは流魂街の出なので、自分で作らないと何も食べられなかったんですよね。
 だから一通りは作れます。
 あ、でも修兵とかには負けるかな。特技料理っていうだけあって、本当に美味しいんですよー?」


 ふふふと笑って、松本は会話を切り上げた。
 弁当の時間に突入するつもりらしい。
 俺はまだ信じがたい思いで松本が給仕する様を見やる。


 松本乱菊が料理ができるなどと、誰が考えるだろうか。
 そりゃあ、女なら料理ができる方がスキルとしては評価されそうなものだ。
 これが雛森であれば、あまり驚かない。
 もっとも俺の幼馴染の料理の腕はたいしたものではなく、焼き菓子やら卵焼きやら、あまり難易度の高いものを作るのが常だ。やれといったところで、この重箱の彩を再現するのは無理だろう。


 護廷隊一の妖艶美女とまで称される容姿。
 エリートと呼ばれる死神の中で、さらに十二人しかいない副隊長の一人。
 明るく朗らかで人望厚く、豪放磊落な性格ながら決して憎まれることはない。
 護廷隊のトップはクセの強い者が多いが、松本を嫌っている人物はあいにくとまだ見たことがない。


「はい、どうぞ召し上がれ」

 重箱の中からいくつか取り分けて、俺に手渡す。たまたま目に入ったのは椎茸の入った卵焼きだった。
 黙ったまま箸を受け取り、口をつけて。
 (本音を言えば、見掛けだけですごい味っていうことも考えたんだが)


 俺は唸らざるを得なかった。

「……旨い」
  
「お口に合ったなら嬉しいです。どんどん食べちゃってくださいね!」


 にっこりと楽しそうに笑って、松本は自分の分もより分け始めた。 
 出汁が絶品だ。何で味付ければ、こんな上品な味付けになるんだ。


 まじまじと卵焼きを見下ろして、また唸る。
 ふわりと鼻をくすぐる美味そうな匂いに、俺は再度箸を伸ばした。
 その時だ。


「っ……!」

 びりびりと霊圧感知に引っかかったのは、違和感だった。

「隊長、これ……!」
 
 身構える俺の隙をつくかのように、空気をきしませてそいつは空間を切り裂いた。


 


 空間を割いたのは巨大な鎌だった。
 否、鎌形をした巨大な腕だ。
 鎌だけが肥大化した、蟷螂のような姿をした生き物。
 その顔は骸骨を模した白い仮面に覆われている。
 窪んだ目のあたりが暗く灯り、そいつは俺たちを見下ろした。


「虚……!」

 氷輪丸に手をかけながら大きく跳んで、全体を視界に入れる。
 カラン、と小さな音が地面のあたりで聞こえた。


 数瞬遅れて、松本も斬魄刀を抜いて俺の傍へと駆けてくる。
 険しい顔はいつもの副隊長の顔だった。


 グアオオオオオオオ……!

 耳に障る音は、その虚の発する鳴き声のようなものだろう。

 虚は鎌を振るい、俺を狙った。
 大振りだが速度はあり、重い。勢いのまま地面を抉り取った。
 
 虚は闇雲に腕を振るった。
 地面が抉られ、カマイタチが周囲を切り裂く。
 草原の草花が散り乱れ、森林の木々がずたずたにされていく。


「こいつ……、手負いですね」

 虚は腕を一本失っていた。
 ぼたぼたと体液をこぼし、目には狂気の光が灯っている。
 怒りに駆られて、もはや何に怒りをぶつけていいのか分からなくなっているようだった。


「大方、十一番隊の遠征先から逃げ出した一匹ってやつだろう」

「え?」

「昨日阿散井が言っていた。斑目たちの報告によれば、腕を一本落としたが逃げられた、ってな」 

 いささか気分を害した心持ちで、俺はそいつをにらんだ。
  
「運のねえヤローだ」


 氷の封を解き、俺は剣を手にした。
 刀を解放しないまま、俺はそいつを十字に切り落とした。







   ※※※






「あの虚が現れること、ご存知だったんでしょう」

 青空の下、小花がちらほらと咲いていて、なんとものどかな光景だ。
 突然の襲来のせいで、弁当は台無しだった。
 地面の上に無残に転がり、その上虚の足に潰されていたらしい。重箱は欠け、中身の方は食欲をそそらない代物に成り果てている。


「なぜそう思う?」

「動じなすぎです。それに……この場所指定したのだって、考えてみれば違和感がありますよ。
 昨日、見てらした報告書でしょう?
 ”この付近で鍛錬をしていたら虚らしき気配を感じたので報告を行ったが、後日隠密機動の調査で異常なしと判断された”っていうやつ。
 餌に、霊圧まで上昇させておびき寄せるなんて」


「ちゃんと目を通してるんだな、おまえも」

「あたりまえです。これでも副隊長なんですからね」

 拗ねたように口を尖らせて、松本は弁当箱を片づけをしていた。
 中身の方は諦め、破損した箱だけを風呂敷包みで包み直す。
 綺麗に飾られた弁当、松本自身は一口も食べていないはずだった。


 決まり悪い気分がして、俺は渋々と口を開いた。

「……悪かったな。せっかく作ってくれたのに」

 虚については、松本の指摘どおりだった。
 普段ならわざわざ確認に足を伸ばす必要もない完了済みの報告書だ。
 気になったのは一点、隠密機動の調査で異常なしとされた点だ。
 隠密機動が異常なしと言ったなら、その時点では確かに異常がなかったに違いない。
 だが第三地区の郊外は死神が鍛錬によく使っている。高霊圧を求めに虚が現れる土台が整っていた。
 十一番隊が遠征に出たのは第四地区。逃げ出した虚が来ている可能性は、元よりあった。


「なに言ってるんですか。
 あたしが勝手に作っただけなんですから、そんな顔しなくていいんですよ。
 まあ、あの虚には、『生前食べ物を粗末にしちゃいけません』って教わらなかったのって説教したいですけどね」


「……また、頼んだら作ってくれんのか?」

「どうでしょう?気が向いたら作りますよ」
 
 言葉に険がある。
 静かな怒りをまとわせて、黙々と片づけを続けている。
 なまじっか、よく喋る女なせいで、黙っていると怖い。


「なんで怒ってんだ」

「怒ってなんていませんよ」

「怒ってるだろうが」

「怒ってません、拗ねてるだけです。
 せっかく隊長とお出かけだからって気合入れてお弁当作ったのに、隊長は任務だったっていうのがちょぉーっと、残念だっただけです」


 言葉どおり、つんと口を尖らせて、松本はそっぽを向いてみせた。
 子供じみたしぐさだが、こいつには似合う。
 だが可愛らしいというよりは腫れ物に触るような気分だ。


「……次は、任務抜きで出かけるか」

「あら。いいんですか、そんなこと言って?」

「俺だって、別にそこまで仕事好きじゃねえよ」

「本当かしら」

「その代わり、弁当作れ。最後まで食えなかったから、ちゃんと食いたい」

「……しかたないですねえ」

「期待しとく」

 




   ※※※






「まだ、戻るには早えか」

 ごろんと横になって、俺は空を見上げた。
 穏やかな陽気に青空で、昼寝にはこれ以上ないって空だった。
 草の香りが鼻に届く。
 
「気持ちいいですねえ」


 目を細めた副官が、隣で横になるのが見えた。
 さわさわと揺れる小花ではこいつを飾るには物足りないが。
 目を閉じてすやすやと眠り始めた副官にはちょうどいいのかもしれなかった。



10/02/17