「何人死んだ!」
狂気と絶望を孕んだ声が叫び、黒翼を背負う者たちは打ち震えた
けして、畏敬からではない
種の中で最強と仰ぐ者の堕落への悲嘆
先の見えぬ種族への絶望
未来を紡げない不安
その全てが王の口から吐き出された故であった
「今日は、一人死にました」
報告の言葉に王は嗤う
「今日は、か……今日もの間違いだろう!」
赤子が生まれぬ
生まれたばかりの雛はとても弱く、呪われた国では生誕も難しい
だが、そしてまたかの国へ縋り跪き憐れな忠誠を誓ってなんとなろう
結局は、繰り返し、繰り返し!
悲劇の上塗りだ!
くっくく
王は嗤う
ああ、もはや――
(もはや、滅びるより他に、道は)
王の口からその言葉が生まれ出ようとした時、小さいノックが耳に届いた
「王よ」
王はその言葉にびくりと身体を揺らした
おそろしいものを見やるように声の主に入室を許す
囁かれた言葉に、部屋を辞す王を見つめ、老いた鴉は深い深い溜息をついた
「兄様」
その部屋では、一人の女が死に掛けていた
王の年の離れた、末の妹である
目の覚めるような蒼い髪をした妹は、兄と呼んだことへ首を振る
「我が王」
そして
その腕の
中に
「ネサラと、名付けました」
「……生まれたのか」
「はい」
「死産ではないのか」
「はい」
「生きて」
途端、王の耳に周囲の音が広がった
室内は余すことなく鳴き声に包まれている
産声だ
生命の声だ
未だ開かない瞳も
産毛のように覗く蒼い羽も
全てが命を叫んでいる!
「生まれた……のか!」
はい
女は笑った
「風羽の魔力、全てこの子に遺します」
希い、呪い、祝福を
全てこの命の中に!
妹は事切れた
赤子は鳴き続けている
力強く、鳴き続けている
「ネサラ、ネサラ……ネサラ!俺の妹のこども、何年ぶりになるか、新しき俺の民!」
王は嗤う
それはけしてただ希望に溢れたものではなく
ひどく壊れた、狂った笑みで
「ネサラ!お前が血塗られた刻印を継ぐ日まで、俺はかの国に跪くことを厭わぬぞ!」
「誇りも、血も、命も捨てること躊躇わぬぞ!」
国も民も、呪いすらも
お前のために全てを遺そう
(その先に滅びが待とうと)
(あるいは解放が待とうと)
ネサラ
その名がこの呪われた玉座を継ぐ、最期の王となるのだ!
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